研究歴(2000.9〜2003.3)

    2000年9月〜2003年3月(修士課程1年後期〜博士課程1年)
    ・DONUT実験(タウニュートリノ直接検出実験:FNAL-E872)に参加
     1.ニュートリノ反応の検出とタウニュートリノ荷電カレント反応の同定
      DONUT実験は原子核乾板の間に鉄板を挟み込んだ検出器であるEmulsion Cloud Chamber(E.C.C.)を使用した。厚さ1mmの鉄板をまたぐ飛跡の追跡は連続的でなくとびとびになるために、秘跡の追跡には技術と経験を要する。このとき、秘跡の追跡を誤ることなくおこなうためのマニュアル作成に当たり、厚型原子核乾板を扱ったCHORUS実験での経験を充分に生かすことができた。
     1998年に第1例目のタウニュートリノ荷電カレント反応が同定されていたなかで、DONUT実験の当初の目的を果たすためにはさらなるイベントが必要であった。この状況下でニュートリノ反応の検出とタウニュートリノ荷電カレント反応の同定を担当した。ニュートリノ反応の検出には、カウンター情報によるpredictionの作成、これに基づく全自動飛跡読み取り装置(UTS)によるデータ取り、取得したデータの評価、そしてニュートリノ反応点の検出という段階を踏む。また、タウニュートリノ荷電カレント反応の同定にはτ粒子の崩壊候補の選別と判別という段階がある。両過程はすべてオフライン処理と半自動光学顕微鏡による肉眼観察でおこなった。DONUT実験の一員としての期間に、これらすべてを担当した。そして、オフライン処理で選別したイベントが肉眼観察で偽と判断したものをフィードバックすることで、オフライン・プログラムのイベント選別精度向上に貢献した。さらに、肉眼観察の経験から、PCのモニター上で飛跡情報を表示してオフライン処理の結果の真偽を判定する3Dディスプレイの開発にもたずさわった。
     また、DONUT実験は日本、米国、韓国、ギリシャの4カ国での国際共同実験であったため、おもに米国、ギリシャの研究者が見つけたニュートリノ反応候補の真偽の判断を一手に引き受けて処理した。さらに、内部会議や電子メールによる海外の研究者との対話の中で、どのようにして日本グループが主導権を握るかという戦略やそれをどのように実行するかという戦術を学んだ。結果として、タウニュートリノ荷電カレント反応を4例同定した。この過程で肉眼観察した事象数は1000例(飛跡の本数にして約5500本)を超えた。
     その後、ニュートリノ反応検出率向上のために、それまでのニュートリノ反応検出方法を見直し、問題点の解決方法を考案した。そして、これを修士論文にまとめた。(修士論文「DONUT実験における反応点検出効率の改良」)

     2.τ→ρ+ντ検出効率向上のためのE.C.C.内でのγ線検出基礎研究
     DONUT実験のもうひとつの役割は、タウニュートリノの出現でニュートリノ振動をとらえる実験(OPERA実験)の予行であった。その基礎研究のひとつとして、τ粒子の崩壊様式のひとつであるτ→ρ+ντ検出効率向上の研究をおこなった。ρ粒子はρ→π+π0→π+2γというカスケード崩壊を起こすため、この崩壊様式の検出率向上のためにはE.C.C.内でのγ線検出とそのエネルギー測定が鍵となる。γ線はE.C.C.内で電子陽電子対生成の飛跡を残す。γ線源をニュートリノ反応によるπ0中間子とし、この研究を幾何学的過程(E.C.C.内での電子陽電子対生成の飛跡検出)と運動学的過程(γ線のエネルギー測定によるπ0中間子の質量再構成)の2段階に分けておこなった。結果として、幾何学的過程におけるE.C.C.内でのγ線検出は原理的に可能であることを示した。この結果は国内外の共同研究者に高く評価され、この研究はその後、他のメンバーに引き継がれた。